2025年11月15日(土)・16日(日)、千葉で開催された「一般社団法人 職人がつくる木の家ネット 第七期総会」の様子をレポートします。
全国各地より78名(会員以外の方も含む)が参加され、1日目(15日)は総会・懇親会・分科会、2日目(16日)は千葉ならではの見学ツアーを行いました。
時間軸に沿って写真を交えながらご紹介していきます。
1日目:総会・懇親会・分科会
総会
大江忍前代表理事挨拶

大江前代表が、12年間の活動の節目として代表を辞任することを表明しました。
「在任期間中には、“木の家ネット”と“緑の列島ネットワーク”の合併を行い、移管した資金をもとにホームページの全面改修。令和元年に法人化し事務局を倉敷に移転。2007年の建築基準法改正への対応や運動。伝統建築技術のユネスト無形文化遺産登録への活動。“気候風土適応住宅”への対応や取り組み。などさまざまな活動を皆さんと行ってきました。この会に携われたことを感謝しています。今後は会計監査というかたちでこの会を見守って行きたいと思っています」
開会挨拶(綾部考司代表理事)

「埼玉県の川越で大工工務店をやっている綾部です。この度、運営委員の方々からお声がけいただき、先代、先先代と様々な形で続けてこられた“木の家ネット”の代表理事を務めさせていただくことになりました。この会は独特の雰囲気と強い個性を持つ会員が多いですが、目指す方向は一致しています。力を合わせて国や世の中に働きかけをしていきましょう。今日の総会での法制度に関する報告や分科会での議論を通じて、国へ意見を届ける機会としてほしいです」
旧運営委員紹介


旧運営委員の金田克彦さん・丹羽明人さん・古川保さん・和田洋子さんから、お礼の挨拶がありました。長らくの間ありがとうございました
新旧運営委員紹介
続いて新運営委員の紹介です。

笠原 由希さん|千葉県|木の家設計室 アトリエ椿
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「この会に入ったのは10年くらい前で、ちょうどその年に出産したので、ずっと活動らしい活動はしてませんでした。そろそろ外に出れるようになったので、皆さんの力になれるように頑張りたいと思います。どうぞよろしくお願いします」

川端 眞さん|滋賀県|川端建築計画
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「留任で運営委員ということで最高齢になってしましました。引き続きもう少しだけ頑張りたいと思います。皆さんよろしくお願いします」

剣持 大輔さん|山形県|剱持工務店
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「川端さんと同じく留任でございます。微力ながら綾部新代表を支えていきたいと思っています。よろしくお願いします」

増田 拓史さん|三重県|muku建築舎
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「できることを考えながら皆さんの力になれたらと思っています。よろしくお願いします」

松村 寛生さん|静岡県|株式会社木ごころ工房
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「何ができるかわかりませんが、精一杯頑張ります。よろしくお願いします」

水野 友洋さん|岐阜県|水野設計室
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「入会して10数年経ちます。木の家ネットでは色々な方に助けていただいています。そのご恩を返せられるように頑張りたいと思っています。よろしくお願いします」

山田 貴宏さん|東京都|一級建築士事務所 ビオフォルム環境デザイン室
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「私もこの会に入っていつの間にか20数年になりました。いつかは番が回ってくるんじゃないかと思っていたんですけど、とうとう来てしまいました。どれぐらいできるか分かりませんが、よろしくお願いします」

この日、参加できなかった柴田亜希子さん(愛知県)、宮内寿和さん(滋賀県)の2名を含む10名で運営委員会を構成します。よろしくお願いいたします。
新入会員自己紹介
七期中に、新たに6名の方が入会されました。自己紹介をしていただきました。

金橋 諒子さん|正会員|三重県|大工
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「三重県で一人で大工をやっています。神奈川県の木工舎で修行をしておりました。いろいろ学びたいと思っています。よろしくお願いします」

梅田 太一さん|正会員|東京都|設計
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「伝統構法の文化財の修復を中心にやっています。新築の方もやりたいなと思いながら、なかなかできていないので、皆さんから実際のところを学んでいきたいなと思っています。よろしくおねがいします」

島﨑 希世さん|準会員|島根県
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「島根県で建築をしております島崎きよとですね。えっと、こちらでいろいろと勉強していて、島根で昔ながらの家づくりをしたいと思っておりますので、よろしくお願いします」

ぜひプロフィールページをチェックしてみてください。それぞれのWEBサイトやSNSへのリンクもあります。
当日欠席の試入会員の方はこちら
菱田 昌平さん|正会員|長野県|工務店
→プロフィールページ
藤本 嶺さん|正会員|神奈川県|工務店
→プロフィールページ
藤木 剛さん|正会員|大阪府|工務店
→プロフィールページ
新入会員の皆さん、どうぞよろしくお願いします。
七期 決算報告・事業報告
大江前代表理事より七期の決算報告と事業報告、綾部代表理事より八期の事業計画・予算案について説明がありました。


木の家ネットの趣旨・活動・部会について、ホームページや定款をもとにあらためて説明がありました。「学ぶ機会が増えるような企画を考えていきたい」(綾部さん)とのことです。
部会報告
部会報告:環境部会
環境部会の活動について山田貴宏さんから活動報告がありました。

山田さん「綾部さんにかわり環境部会の部長を務めることになりました。気候風土適応住宅については皆さんの認知も上がってきていると思います。現実的には環境性能を感覚ではなく、数値やエビデンスで証明する必要があります。様々な政策が出て右往左往してしまいがちですが、セミナーや勉強会等で皆さんと共有していきたいなと考えています。また、テーマや議題をお寄せただければ、それに沿った形での勉強会も企画したいなと思っています」
部会報告:見積部会
見積部会の活動について金田克彦さん(京都府)と丹羽怜之さん(三重県)から報告がありました。


金田さん「本日は毎年ここで話させてもらっていますが、今年で9年ということになりました。木の家づくりの予算の4割以上を占める木工事の見積もりに関して、透明性を持たせ誰でも使える見積りシステムを作ろうという主旨で活動しています」
丹羽さん「見積り部会の墨刻みチームでは、その9年間にわたって蓄積されてきたデータや、考え方をエクセルにまとめシステムを作っています。基本的な部分では、かなり実用化に近づいている段階です。年明けにはこのエクセルデータを配布できるようにしたいと思っています」
部会報告:仕口部会
仕口部会の活動について、欠席の宮内寿和さん(滋賀県)に代わって、増田拓史さんから報告がありました。

増田さん「来年1月、京都大学宇治キャンパスにて石場建ての平屋構造物に対する破壊実験を実施します。小さい建前して建て、実際の地震波を再現し、建物の損傷過程と具体的な破壊箇所を観測し、また解体します。建物が揺れ、最終的に破壊される過程を目の当たりにできます。なかなか立ち会えることのない機会ですし、どこが壊れるのか、自分の予想と結果を比較してみることで、非常にイメージしやすくなります。3週間にわたり3棟を順次実験するため、部分的な参加も可能です。今後の仕事に生かしていけると思うので、ぜひご参加ください」
部会報告:マーケティング部会
マーケティング部会の活動について大江忍前代表から報告がありました。

大江さん「昨年度はホームページのリニューアルをしました。今後のことは、新運営委員・新マーケティング部会の方で決めていきます」
各部会に興味のある方は奮ってご参加ください。
報告会「次世代に何を引き継ぐ?これからの建築のあるべき姿について国交省に意見を届けよう!」講師:林 美樹さん
会員の林美樹さん(東京都)に登壇いただき、ご自身が委員を務めている、社会資本整備審議会(国土交通省に設置)へ、皆さんの意見をパブリックコメントとして届けてもらいたと、下記の順に発表がありました。
国交省社会資本整備審議会について
今年度、何が議論されてきたのか?
建築⾏政の中⻑期ビジョンについて
LCA (LCCO2)について、省エネ性能について
質問タイム
意⾒の出し⽅ 意⾒交換





会場からは様々な質問が活発に行われました。
ホームページについて
昨年度、リニューアルした木の家ネットのホームページについて、岡野康史さん(コンテンツ・WEB担当)より説明がありました。
懇親会
総会の後は、皆さんお待ちかねの懇親会。


乾杯の音頭は渡邊隆さん

次回の総会は長野に決定!長野の坪内さんから挨拶がありました。
坪内さん「良い加減の楽しい会にしたいと思っていますので、よろしくお願いします!」






分科会
今年の分科会は【①見積り部会】【②「次世代へ引き継ぐ建築」についての意見交換 A〜C班】に別れて議論を交わしました。
分科会①【見積り部会】




増田さん「今の時点で出来上がっており見積りシステムを見ていただきました。完成に近づいています。物件数が増えれば正確性が向上するので、皆さんに現場で試用しいただいてフィードバックをもらえると嬉しいです」
分科会②【「次世代へ引き継ぐ建築」についての意見交換 A〜C班】


A班

剱持さん「意見箱にただ出してくださいと言ってもなかなか集まらないので、小規模な勉強会を開催するのがいいのではないかという意見でまとまりました」
B班

山田さん「既存ストック活用、人材確保・育成、新技術、木材利用の4つの視点で議論しました。
[既存ストックの活用]既存不適格の改修は負担が大きく、現行の基準とのギャップが課題。
[人材確保・育成]職人不足が深刻化するだろうということと、設計者も、AIの影響が懸念される。
[新技術]3Dプリンター等の新技術が出てきているが、それで本当にいい住まいになるのか見極めなければならない。伝統木造が持っている”柔らかい環境制御技術”を省エネ評価に盛り込んでいきたい。
[木材利用]木造推進といっても、CLT等集成材中心の数の議論に偏りがちなので、地域材や小規模製材の価値を、きちんと評価する仕組みが必要だろう。
という話が出ました」
C班

川端さん「木をどれだけ使うと、CO₂を何トン固定できるという話をメーリングリストなどで発信していきたい。壁倍率のように「カーボン倍率」的な差分指標を決めることができれば、公正な評価ができるのではないか。という議論になりました」
2日目
佐原見学
2日目の午前中は「北総の小江戸」と呼ばれる歴史的な水郷の町、佐原(香取市)の伝統的建造物群保存地区を見学しました。3班に分かれ、それぞれ別ルートで、与倉屋大土蔵・植田荒物店・いかだ焼き本舗 正上・福新呉服店・旧三菱銀行佐原支店・伊能忠敬旧宅 などを見学しました。

与倉屋大土蔵
景観形成指定建築物ともあり、254坪の堂々たる土蔵。1889年(明治22年)に醸造蔵として建てられたもので、戦後は米蔵として四万俵を積み上げていたという。江戸・明治時代の醸造業・米蔵の大規模な建造物として、関東では数少ない貴重な場所。
不整形の敷地の高低に合わせて、屋根の土葺き下地の起伏を調整することで、瓦を切断することなく、複雑な屋根の形状に三次元的にフィットさせている。と聞いて皆さん感嘆していました。しかも木材は全て丸材ですからさらに驚きです。



細かい部分が気になる。木の家ネットあるある。
植田屋荒物店
1759年(宝暦9年)創業の荒物店。陶器や漆器、和装用の小物、竹細工、工芸品などが陳列されている裏手の蔵を見学しました。


いかだ焼き本舗 正上
店舗兼住宅は、1832年(天保3年)に建てられた町で最も古い建物で、隣の土蔵は1868年(明治元年)の建築。千葉県指定有形文化財。江戸時代の店構えが残る数少ない建築物です。



雨戸の”戸廻しの術”に興味津々の皆さん


福新呉服店
1802年(文化元年)創業の呉服店。町並み景観上も重要な位置を占める建物で、千葉県指定有形文化財に指定されている。現在の店舗兼住宅は1892年(明治25年)の佐原の大火後に建てられたものです。また、奥の土蔵は1798年(寛政10年)建築とのことで、切妻平入の2階建てですが、屋根裏を含めると3階建てとなっています。


東日本大震災の際に、こちらの建物が激しく揺れ、瓦が落ちていく様を収めた、貴重な動画を見せていただきました。
三菱館(旧三菱銀行佐原支店)
1914年(大正3年)建築。明治の西洋建築の流れを汲むレンガ積みの洋館で、元々は川崎銀行佐原支店として清水満之助本店(現清水建設)が設計施工したものだそうです。東日本大震災での被災後、大規模改修工事を行いました。


伊能忠敬旧宅
1793年(寛政5年)建築。国指定史跡。なんと伊能忠敬本人の設計とのこと。伊能家は旧佐原村本宿組の名主を務め、酒造業や米穀販売などを家業としていたそうです。50歳で隠居して、そこから天文学や地理学を学び、大日本沿海輿地全図(伊能図)を完成させたことで広く知られていますね。店舗は、伊能家が醸造業を営んでいたときの倉庫を改造された物といわれます。



オプションツアー
午後はオプションツアーとして、旧岩崎家末廣別邸(富里市) と 飯沼本家(印旛郡酒々井町) を見学しました。
旧岩崎家末廣別邸
三菱三代目社長 岩崎久彌の別邸。大正時代末から昭和初期にかけて久彌氏が経営した「末廣農場」の中に建てられたものです。建築年代は昭和初期で、関東大震災の記憶も色濃い時代に設計されたこともあり、耐震構造と当時最新の耐火建材を使うなど、歴史的価値があるとして、国登録有形文化財に指定されています。









飯沼本家
江戸時代・元禄年間(1688~1703年) には既にこの地に居を構えていたとされ、江戸時代後期から明治にかけて、酒醸造・農業・製麹・製茶・養蚕・素材の販売など、幅広く商いをしていました。老舗日本酒蔵元として、銘柄「甲子(きのえね)正宗」が有名です。伝統的な酒造りを守りつつ、敷地内にカフェ・レストラン・農園・キャンプ場を構えています。今回見学したのは「主屋」で、江戸中期の建築と推定されています。
直近の改修には調査から数え、足掛け13年かかっているそうです。300年を超える歴史の重みを噛み締めながら見学しました。




山田さんから感想をいただきました。
山田さん「良いものを見せてもらい、環境も含めて感銘を受ました。昔の仕事は一つひとつが丁寧で、専門家でなくてもその違いが見てわかりますね。こうした良いものを多くの人が目にすれば、日本の建築や文化も少し変わっていくのではないかと思います」
2日間ありがとうございました。
久しぶりに顔を合わせ、意見や情報を交換し、それぞれが刺激に満ちた千葉ならではの2日間となりました。ありがとうございました。
来年は長野でお会いしましょう!






