雑木の庭に建つ石場建ての家
埼玉県川越市
店蔵の連なる川越市の市街地から程よく離れた静かな住宅地、周囲を低層の住宅に囲まれたところにご紹介する住まいは建っています。南と西には道路があり、富士向きといわれるやや南西向きの敷地です。季節を通じ程よい日射や風通しがあるため、それら自然エネルギーを活用しつつ、住宅周囲の外構を温熱的なバッファゾーンとして捉えた積極的な環境改善を施しています。
緑の少ない殺風景な住宅街が増えていますが、敢えてそこに森をつくり暮らすということを目指して計画し、気候風土に適応した多様な要素を備えています。持続可能な生態系を持ち、自然の恵みである日射・水・風の恩恵を受けることで、樹木と菌糸類、微生物などが有機的につながりながら最適化していき、その一員である住まい手は、四季を感じながら心地良く豊かに、少ないエネルギー消費量で暮らしていくことが可能になっています。

木と土を主要な材料として用いています。本小松石、西川杉板、本漆喰、和瓦で仕上げられた外観は、雑木の庭との相性も良く、機能的にも調和しています。 庭と地続きになった床下は、土を露出させることで季節や天候に応じた吸放湿ができるようになっており、 各方位からの風が通り抜けることで、適当な湿度が維持されています。

この計画では、かつて水田だった地盤に木杭を打ち、外構環境を改善することで自然の持つ快適性を取り戻すこととしています。造園家とも話し合い150坪弱の敷地条件を生かした土中環境の改善、水脈づくり、広葉樹を主体とした樹木の配置など、持続的に雨水の自然浸透や通気が可能な造作をしています。


左は造園完了時芽吹きの頃。右は2年3ヶ月後の夏、すくすくと育った樹木により、各所に木陰が増えた様子。
ポイント
POINT
1
深い軒、大きな窓、落葉樹の庭に暮らす

3月初旬の午前中。日射を取得したい季節は、樹木の落葉により部屋に日射が差し込みひだまりの暖かさを楽しめる。紙障子、ガラス戸、ガラリ雨戸、雨戸による多層構成の建具は季節に応じた日射や通風の調節が可能。雨樋を設けない軒先からは、雨落としに水と空気が吸収され土地を潤す。

POINT
2

床と天井の無垢板、構造現しの架構、竹小舞土壁下地の壁、木製の窓、藁畳はいずれも調湿効果のある多孔質の材料。湿度の高い日は空気中の水分を吸い、カラッとした日は水分を放出。

多層構成の掃き出し窓の障子やガラス戸を引き込むと、全開となり庭と一体となる。
POINT
3

地域の赤松無垢材を木組み加工するための墨付けの様子と現場で行われている自然石への墨出しの様子。末長く使った後は、いずれも人力のみで再利用部材として転用が可能。

小舞掻きが完了し、左官職人による荒壁付けの様子木、竹、藁縄、荒壁土、藁すさで構成される壁は、蓄熱性や調湿性を持ち合わせている。屋外の羽目板張り部分には透湿性の高い木質断熱材を組み合わせている。
建物の概要
埼玉県川越市
6地域
2018年2月 外構2019年5月
平屋建て
107.41㎡
【柱・梁】埼玉県産西川材 杉・桧、山梨県産 赤松(梁) 【壁】埼玉県産荒木田土
【種類】基礎石 【柱脚】石場建て
【屋根】三州いぶし瓦葺き・トントン下葺き(コロシート)、ガルバリウム鋼板立て平葺き 【壁】杉目板張り・漆喰仕上
【床】桧板張り・藁畳敷き 【壁】漆喰仕上 【天井】杉板張り (勾配天井)
【床】ウッドファイバー120mm 【壁】ウッドファイバー38mm 【天井】ウッドファイバー90mm
1.02W/㎡K
0.83
1項一号ハ(1)(ⅰ)及び(2)(ⅱ)
エネルギー使用量実績データ(設計時と入居後1年間の実測)
設計一次エネルギーは基準エネルギーの86%ですが、居住後の使用 エネルギーは、基準に対して34.1%です。外皮は断熱基準に達しませんが、気候風土適応住宅に備わるさまざまな要素によって、低エネルギーで快適な暮らしが実 現できています。本質的な省エネルギーの評価は、気候風土適応住宅に用いられてい る材料や工法を盛り込み、さらに 製造から建設、廃棄に至るLCAで 評価するのが相応しいと考えています。
テーマと要素
1
様式・形態・空間構成
深い軒の出と各居室に設けた大きな引き込み戸により、日射や通風、視覚的かつ機能的な庭との連動が可能。リビングの頂部に設けられた南北の窓は、通気良好で採光採暖もでき、自然エネルギーが活用し易く、内部の建具を引戸とすることで、多様な暮らし方に対応できる。生活空間のボリュームが調整できることで設備エネルギーを節約。
2
構工法
地域材による現しの木組みとし、竹小舞下地の土壁と組み合わせることで、安全かつ維持管理のし易い構造としている。修繕や移築再生し易い木、土、草を主要材料に用いた手刻みによる加工とするにより資源の長寿命化や再利用性の向上、土に還る配慮は災害時の環境影響を低減する。併せて自然の材料に備わる調湿などの特性を最大限活用し、快適を保ちながらエネルギー使用を抑制。
3
材料・生産体制
地域材を用い地元の職人による手仕事とすることで、技術の継承を確実にし長期に渡る維持管理を担保。現しで用いる多くの木材使用により地域林業の活性化や炭素貯蔵に貢献している。
4
景観形成
建物周囲に雑木を巡らし、緑豊かな居住環境を形成するため、敷地全体にわたる土中に、水の浸透と通気を行き渡らせ適正化、生き生きとした樹木と菌糸類を育て、持続的な温熱バッファゾーンとしての機能を向上させている。
5
住まい方
続き間や引き込み戸の多用に加え、高窓や地窓などを設け、季節や天候に応じた良き日本の暮らし方を継承しながら、現代的な暮らしが行いやすい配慮をすることで、季節に応じたしつらえの変化や、季節感ある暮らし方がし易くなっている。
つくり手のご紹介
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