風のとおり道
熊本県熊本市
敷地は熊本市郊外。南には樹木が生い茂る小高い丘があり、その足下には小川が流れ、緑と水を介した涼しい風が敷地を抜ける。この風を南の大きな窓からよびこみ、風通しと吸湿材で涼を感じる。冬は多層構成の木製建具を閉めて小さく住まい、薪ストーブを焚き、土壁の蓄熱効果で暖かく過ごす。施主が造園業を営むため、仕事で廃棄する枝木が燃料となる。
建築の材料は主に木と土と竹と藁であり、瓦や設備機器以外のほとんどが熊本県産材である。床と天井の断熱材にも構造材の廃材である鉋屑を用いた。
石場建て+真壁構造は、被災時や白蟻被害時に、被害箇所の状況を把握し修繕方法を考えることが容易であり、建物の長期使用へとつながる。また、地域の自然素材と地域の職人による家づくりは、材料の生産・運搬などに関わる建設時のCO2排出量が小さい。さらに、役目を終えれば土か煙となるもので産業廃棄物は発生しない。ライフサイクルを通して環境負荷が極めて小さい住宅である。

高天井で構造材あらわしの内部空間。畳、土壁漆喰、杉板、木製戸、障子など建物を構成するほとんどの材料が吸湿材であり、熊本県産材でもある。

設計時のイメージスケッチ。敷地の南にある樹木と川を通った涼しい風が、建物全体を通り抜ける。
ポイント
POINT
1
周辺環境への適応

南面の大きな開口部は、内障子・ガラス戸・格子網戸の3層の木製建具で構成される。木製引戸は全面引込みが可能であり、涼しい風を開口いっぱいに取り込むことができる。また、網戸には格子があり、施錠も可能なので、ガラス戸を開放したまま就寝できる。

バス通りである北面には木製面格子を設け、視線を遮りながら風の出口を確保した。
POINT
2

建物の寿命は軒の長さに比例する。 北面は1130mm、南面は2115mmの深い軒庇とし、建物を守る。

シロアリが多い南九州では、薬剤を使わない白蟻対策として床下開放がよい。伝統構法の石場建てとし、床下は常に風が通り抜ける。
POINT
3

熊本県は杉の産地であり、生産量は日本で第4位である。熊本の山と施主を繋ぐ産直システムをつくり、必要な木材の使用箇所・寸法に応じて山から切り出す。施主と一緒に山に入り、自分の家に使う木を伐採する。家に使う木が、どのような山で育っているのか、誰が育てているか、どのように切り倒すのか、様々な学びが家や地域への愛着へつながる。
建物の概要
熊本県熊本市
7地域
2020年12月
平屋建て
82.46㎡
【柱・梁】熊本県産 杉・桧 【壁】熊本産壁土
【種類】地中梁基礎 【柱脚】石場建て
【屋根】淡路いぶし瓦葺き 【壁】杉下見板張り・漆喰仕上 【主な窓】地場製作木製建具
【床】杉板張り・藁畳敷き 【壁】漆喰仕上 【天井】杉板張り(勾配天井)
【床】かんなくず59mm 【壁】羊毛ウール 30mm 【天井】 かんなくず100mm
1.28W/㎡K
0.85
2項
エネルギー使用量実績データ(設計時と入居後1年間の実測)
設計一次エネルギーは、基準一次エネルギーの88%程度であり、居住後の使用エネルギーは基準1次エネルギーの52.4%である。気候風土適応住宅のさまざまな要素によって、消費エネルギーがおさえられていることが分かる。
テーマと要素
1
様式・形態・空間構成
深い軒庇で日射をさえぎり、南に設けた大きな窓から呼び込んだ風が、東の高窓や北の連続窓を出口として建物全体を通り抜ける。引戸形式の建具や欄間などを開放すると一体の空間となる。
2
構工法
伝統構法の石場建てづくりとした。主に土壁、差鴨居、足固めで軸組を構成し、塗壁や厚板張りにより耐震性を確保している。
3
材料・生産体制
建設材料は屋根瓦と設備機器以外のほとんどを熊本県産材とした。また、地域の職人を採用することで、職人と技術の存続や後継者育成を目指す。
4
景観形成
瓦屋根の切妻型を基本として、外壁は板と漆喰仕上げである。バス通りに面した開口部には木製面格子を設けることで、地域に根差す形態となるよう配慮した。
5
住まい方
夏は建具を開け放ち、大きな窓からの風通しと吸湿材の効果で涼を感じる。冬は多層構成の木製建具を閉めて小さく住まい、薪ストーブで暖を採る。
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