土間と風の家
愛媛県松山市
敷地は河川敷の緑が連なる憩いの緑地公園区域にあり、当住居もこの緑の景観に配慮した家屋と造園計画を目指しました。
これから子育てを迎えるというご夫婦は昔ながらの土間と畳のある家を望まれ、河川敷の緑地公園に対して大きく開いた家は、地元の季節風である西風を取り込むつくりを主として重んじ、季節と共に快適にくらす先人たちの暮らしの知恵・伝統的な家造りの知恵を見習うこととしました。
南国特有の温暖多湿な気候は、湿度が高く夏は蒸れる様な暑さが不快、また家を傷めやすい要因となりますが、真壁による土塗壁や構造体(木材)現し、石場建てなど伝統的な造りは長期的視野において湿気を吸放湿しやすい造りであり、点検のしやすさなど家の耐久性を図ることができます。使用される材料や出てくるゴミもその殆どが土に還る素材であることが、ご夫婦にとって子供たち未来を傷つけない選択肢であったようで、持続循環していく未来をイメージし環境に配慮した住まいづくりを目指しました。

大らかな小屋組み現しの2階多目的スペースは河川緑地に大きく開かれている。 大きな引き込み式の多層構成による窓は地場の職人の手仕事の豊かさが現れ、障子+ガラス戸+格子網戸によって構成されています。

61坪の敷地に余裕は多くなく、二方道路からのプライバシーを確保しつつ住居周囲の居住環境を良好とし、河川緑地の景色と西風を如何に宅内に取り込むかが設計の大きな課題となりました。

ポイント
POINT
1
フレキシブルな和の家、和の暮らし


薪ストーブを配した三和土の土間は玄関であり台所、食卓、応接間として機能する。土壁が薪ストーブの熱を蓄熱し冬は暖かく、夏は北に位置するため土間は低温である。内部建具の仕切り方で空間や温熱的に住人の住まい方に合わせてフレキシブルに変化。季節に応じて空間を縮小化させエネルギーを無駄にせず小さく暮らす和の暮らし。土間から続く二間続きの畳の間には堀ゴタツがあり床座の暮らし。続き間は大勢のお客にも対応。続き間の畳の間が快適すぎて家族全員ここで寝る。個室の寝室を使っていないのは予定外だが、これがフレキシブルな日本の家の良さ。
POINT
2


柱や梁そして足固め、ドッシリと家を支える構造材現しの安心感は他に勝ります。木材が湿りにくい、腐りやシロアリ・カビなど日常的に素人でも点検が可能。災害時のダメージも確認しやすく直しやすい。建物の寿命を高める必要不可欠なつくりで、ロングサイクルにて資源の有効利用を図り環境負荷低減に繋げる。
POINT
3


深い軒庇や窓から距離をとってスダレを垂らすなど日射を有効的に遮り、また土の空間を残し夏場の照り返し抑制と緑陰を通る風を室内に取り込む。 深い軒庇や窓から距離をとってスダレを垂らすなど日射を有効的に遮り、また土の空間を残し夏場の照り返し抑制と緑陰を通る風を室内に取り込む。

道路境界ギリギリまで緑化され、地域の憩いの景観となるとともに小さな生物の生育区域となっている。
建物の概要
愛媛県松山市
6地域
2019年1月
2階建て
117.53㎡
【柱・梁】四国産 桧・杉 【壁】内子産壁土
【種類】基礎石 【柱脚】石場建て
【屋根】菊間いぶし瓦葺き・杉皮下葺き 【壁】大壁黄漆喰仕上・杉目板張り 【主な窓】地場製作木製建具
【床】三和土・杉板張り・藁畳敷き 【壁】土中塗り仕舞 【天井】杉野地板現し
【床】荒壁土60mm 【壁】なし 【天井】パーフェクトバリア70mm
1.82W/㎡K
0.94
1項一号ハ(1)(ⅰ)及び(2)(ⅰ)(ⅱ)(ⅲ)
エネルギー使用量実績データ(設計時と入居後1年間の実測)
設計一次エネルギーは、基準一次エネルギーの94.8%程度であり、居住後の使用エネルギーは基準1次エネルギーの39.5%です。LED使用の安全性がまだ不確かなため主居室は白熱灯を使用していますが、気候風土適応住宅のさまざまな要素によって、消費エネルギーがおさえられていることが分かります。
テーマと要素
1
様式・形態・空間構成
広い三和土の玄関土間と二間続きの畳の間を主リビングとしたつくりである。引戸形式の建具で季節に応じて空間を仕切り、また多層構成の建具によって外界との温熱環境を和らげます。深い軒庇下は雨天時の活用と外界との緩衝空間となっている。
2
構工法
骨太の地域木材をつかった石場建て伝統構法であり、環境負荷のない自然乾燥による。手刻みによる伝統的な継手仕口を使用、和小屋や多重梁、差鴨居・足固による軸組である。維持管理しやすい真壁土壁。三和土土間、大壁づくりの荒壁漆喰など土に還る素材や工法を選択。
3
材料・生産体制
木材や土壁、大島石や菊間瓦、竹細工など地場の地域材や職人を活用し技術継承の場とし、ワークショップ等を通じて伝統的な工法や日本文化の素晴らしさなどを伝える機会を設けた。
4
景観形成
地域に開かれた植栽・外構計画を行った。芝生や緑化によって日射の照り返し防止と蓄熱抑制を図り居住環境を良好とし、地域植生と他の生物の生息区域としての土の空間を残しておく事などに気を遣った。
5
住まい方
季節に応じて空間を縮小化させエネルギーを無駄にせず小さく暮らす。堀コタツは室温をあげなくても効率良く、断熱性保温性吸湿性に優れた畳は夏涼しく冬は暖かい。肌が直接ふれる足元の素材は室温以上に体感に影響するため畳は優れる。座の暮らしは足先を包み込み、足が冷えにくい暮らし。小さなエネルギーで暮らせる知恵を活かすことで省エネな暮らしを目指す。
つくり手のご紹介
前の事例
次の事例