国府市場の家
岡山県岡山市
国府市場は吉備高原と瀬戸内海に挟まれた岡山平野に位置する。地名が表すようにかつて備前国の中枢だった地域で、今も古代条里制の名残をとどめている田園地域だが、近年は宅地開発が進み農地と住宅地が混在している。降雨量は非常に少なく、夏は高温多湿で真夏日や熱帯夜が多い。
敷地は代々住み継いだ土地で、生活道路が交差する角地にあたる。近くに小学校やこども園があり、周囲は新しい住宅が建ち並んでいる。子育てを終えて再び二人暮らしをされているご夫妻は、敷地に隣接する自家農園で野菜や花の栽培を楽しんでいる。
家を建て替えるにあたり、住み慣れた土地の長所短所をよく知るご夫妻は、湿気対策として石場建て伝統構法を希望された。長年地域の景観となってきた庭の樹木は可能な限り残し、既存のコンクリートブロック塀を撤去し、生活道路側は以前の家で基礎として使われていた長石と植栽で緩く仕切った。南は自家農園、西は息子さんの家に接しているが、いずれも緩く繋がっている。敷地の広さを活かして周囲に圧迫感を与えない平屋建てにし、外壁には地域で今も汎用的に用いられている焼杉材を使用し、地域景観に配慮した。


LDKからは大きな断面の多重梁組が見える。仕切ってはいないが、土間からはDKの様子や洗面所への出入りが伺えない配置になっている。キッチン中央にはトップライトを設け、採光と高低差による通風に活かしている。

背の高い奥様に合わせて作った造作キッチン。窓の向こうは格子で囲まれたウッドデッキ=洗濯物干し場
ポイント
POINT
1
湿気の多い地域で「長く住まう × 心地良く暮らす」

石場建てなので床下に風が通り湿気を籠らせない。深い軒や窓庇は雨から家を守り、夏の直射日光を遮る。道路からの視線は遮断しつつ、風は十分に通したいので、道路側の洗面室や浴室の外に縦繁格子を設置した。

無双窓は開けたままでも外出でき、換気を促し熱気が籠るのを防ぎ、光の入り方も調整できる。

湿気が籠りやすい靴箱は簾扉で「通気しながら収納」
POINT
2

農作業中の来客や軽い応接のための腰掛けがある玄関土間を介して、外部と内部が緩く繋がり、人との繋がりにおいても広がりをもたらす。南北両側の外縁も緩く繋がっているので、地域コミュニティーの一助になっているようだ。

応接コーナーから居間を望む下地窓。応接コーナーで話し込んでいても、居間の様子を察することができる。

玄関土間の三和土は足あたりが柔らかで、緩く湿度調整も行う。
POINT
3

前面道路は地域の生活道路で通学路にもなっている。夜は道に灯りが届き、地域の安全に役立つ事を願っている。
建物の概要
岡山県岡山市
6地域
2019年2月
平屋建て
93.14㎡
【柱・梁】岡山県産 桧・赤松 【壁】矢掛産壁土
【種類】基礎石+独立基礎 【柱脚】石場建て
【屋根】三洲いぶし瓦葺き 【壁】焼杉目板張り 【主な窓】地場製作木製建具
【床】三和土・桧板張り・藁畳敷き 【壁】土中塗り仕舞 【天井】杉野地板現し
【床】ネオマフォーム45mm 【壁】フォレストボード20mm 【天井】羊毛ウール100mm
1.48W/㎡K(実績報告時) 2.04W/㎡K(採択時)
0.81
1項一号ハ(1)(ⅰ)及び(2)(ⅰ)(ⅱ)(ⅲ)
伝統構法の家では珍しい電化住宅である。20年以上暮らし慣れているので、新しい家も電化住宅を希望された。その他のエネルギー源は使用していない。エネルギーを全て電気でまかなうため、実績は計算通り、つまり設計値とほぼ同じである。薪ストーブなどを使用し電力使用を抑えた家と比較すると、電化住宅は一次エネルギー消費量において設計値を超えるような省エネは難しい。
テーマと要素
1
様式・形態・空間構成
農作業中の来客やご近所の気軽な接客に対応できるよう、玄関土間に腰掛けを設けた。玄関は東に面しているため、障子を通して朝の爽やかな光を居間に届け、温熱的には緩衝地帯となっている。 地域特有の風向を通風に利用するため南北に開口を設け、座敷と寝室は開放可能な引戸で仕切り続き間とした。緩やかな通風を届けられるよう、建具は可能な限り引戸とした。 深い軒や窓庇は雨から建物を守り、夏の強い日射が室内に入り込むのを防ぐ。南の大きな掃き出し窓の外に濡れ縁、その外には既存樹木を活かした庭となっていて、室内からの景色を楽しむとともに、地域の景観に寄与しながら、南側道路からの目隠しにもなっている。
2
構工法
手刻みによる伝統的な継手仕口で組まれた軸組で、壁は竹小舞下地の土塗り壁、小屋組は多重梁による和小屋組、床は岡山県産檜板張りと藁床畳である。湿気が多い地域なので、建物の湿気対策として床下に風が通る石場建てとした。室内の湿気対策としては、調湿効果を持つ土塗り壁や無垢材、藁床畳を用い、壁内結露の恐れのない真壁とし、結露防止や耐久性向上を図った。 建具は内外部ともに地域の建具職人が製作した。外部に面した窓には内障子を入れた。障子は視線を遮りながら柔らかな光を取り入れ、温熱的には建具間に空気層ができることで温度差を緩衝させる。
3
材料・生産体制
創業100年になる地域の工務店が施工を主導した。工務店から「伝統的な技術の伝承や長期にわたる維持管理を考えて、若い大工に棟梁を務めさせたい」という要望があり、建て主の了解と応援をいただいた。経験豊富なベテラン大工たちが脇を固めながら、20代の若い大工が墨付け、刻み、建て方に始まり、棟梁として現場をまとめた。左官や建具職人、屋根職人などの職人も地域の職人で、材料も木材、壁土などほとんどが地域産。
4
景観形成
外観は昔から瀬戸内海沿岸地域に根ざす焼杉板の外壁といぶし瓦を用い、周囲に馴染むよう圧迫感のない平屋建てとした。外構は既存樹木を活かして生垣を設け、周囲と調和・連担した緑化を図った。地域の景観向上や生活安全に寄与できるよう、緑豊かで緩く開かれた外構計画とした。また、洗濯物干場は風を通しつつ道路や隣地からの視線を遮る格子壁で仕切り、景観にも配慮した。
5
住まい方
続き間を引戸で仕切っているので、通風を活かせる季節には南北の窓を開けて開放的に暮らし、真冬や真夏は暖房冷房を使用するため、生活空間の縮小化を心がける。夏はよしずや簾で日射を遮り、庭の樹木への水やり、土の洗い出しの外部床への打ち水で涼を取る。
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