自然を楽しむ街の家
埼玉県川越市
「街中であっても季節の変化を感じながら自然と共に暮らしたい。」
新旧様々な商業ビルや高層マンションが立ち並ぶ、川越の中心市街地に敷地は位置しています。小江戸を感じさせる歴史的建物が近くに点在するものの、コンクリートやアスファルトに覆われた地面が敷地周辺の大半を占めています。
気候風土に適応し、自然と共に暮らすための計画を進めるに当たり重要視したのは、周囲の環境と建物との間に、温熱的に有効な緩衝帯を設けることでした。特に夏季のアスファルトなどからの輻射熱は居住環境を悪化させるため、植栽や雨水浸透に配慮し可能な限り表土を現す、雨庭を計画しました。西側の月極駐車場となるエリアについても、雨水浸透を速やかにし保湿できる地盤面とするため、造園家の協力を得て透水しやすい材料構成と有機物を用いながら、浸透水脈を設けて緑化をするなど対策を施しています。
建物本体は石場建ての仕様とし、床下地面も周囲の緩衝帯と一体的に造作することで、季節によらず程よい湿度を保っています。深い軒や大きな引き込み窓、多孔質の天然乾燥杉板を用いた板倉のため、季節に応じた調湿機能の効果により心地よい住み心地を実現しています。

季節ごとの暮らしが最適化できるよう、地盤や周囲の環境、将来への配慮をした計画になっています。有機的な環境がつくりやすい石場建てとし、安定した地盤まで竹炭など有機物を組み合わせた版築状の割栗地形を施しています。

隣地の植栽との連担性を高め、お互いに温熱的なバッファゾーンの強化を図っています。日射取得と日射遮蔽、通風経路や景観的な配慮を行い、土中の水脈についても連続させることで、潤いのある土地としての一体性を目指しています。

これまで道路からの雨水侵入と水たまりに悩まされていた敷地の道路側は、雨水の浸透性を増し輻射熱を防ぐゾーンとして、全体に水脈や浸透杭が設けられた月極駐車場としています。治水機能の向上に加え、温熱的な効果が期待できます。
ポイント
POINT
1
居住環境と街の景観への配慮

街の雑踏からの隔離と開放的な暮らしを両立させるため、機能的かつ景観への配慮を目的とした、建物周囲への緑の緩衝帯を設けています。表土を表し、浸透性の高い土中への造作を施すことで、これまであった雨後の水溜まりは消え樹木の生き生きとしたゾーンとなりました。

3.6m幅の大きな引き込み窓により、屋外ととても近い関係になっています。日射取得や通風に効果があり、来訪者もここでのくつろぎを楽しまれているようです。

表土を表し、浸透性の高い土中への造作を施すことで、これまであった雨後の水溜まりは消え樹木の生き生きとしたゾーンとなりました。家庭菜園の野菜も元気に育っています。屋根の雨水は、再利用した瓦の雨落ちから土中に浸透します。
POINT
2

これまで長い間暮らしを守ってきてくれた古材の梁をリビングの中央に配置しました。廃棄することなく再利用することで、炭素貯蔵を継続し続けます。新しい構造材や板材との相性も良いです。

落とし込み板や、藁畳、化粧野地板は、多孔質材料の特徴である調湿に優れています。自然材料が持つ製造エネルギーを減らす効果に加え、調湿などによる心地よさの要素が加わることでエネルギーの使用を抑えることができます。
POINT
3

手で刻み、手で起こし建て込むことで、一つ一つの工程を丁寧に進めました。木の重量感や接合部の締まり具合などを体で感じつつ作業を行うことは、若手職人にとって貴重な経験の場となり、技術や倫理観の承継につながると考えています。

建て方中の様子を見ると、無垢の木材がより際立って見える環境であることがわかります。気候風土に適応した暮らしは、工夫することで準防火地域などの街中でも可能です。

建て方途中の様子です。元々日本の木の家は、組んで解いてまた組むことが可能な木組みになっています。真壁のため、この木組みが見えることで安心感や維持管理の容易さにつながります。災害時への配慮もしています。
建物の概要
埼玉県川越市
6地域
2021年12月 外構2022年8月
平屋建て
89.23㎡
【柱・梁】埼玉県産西川材 桧・杉、古材赤松梁 【壁】埼玉県産西川材 杉落とし込み板
【種類】基礎石 【柱脚】石場建て
【屋根】ガルバリウム鋼板段葺き 【壁】杉目板張り・漆喰仕上 【主な窓】木製建具
【床】桧板張り・藁畳敷き 【壁】杉落とし込み板壁 【天井】杉野地板現し
【床】かんな屑72mm・フォレストボード40mm 【壁】フォレストボード45mm 【天井】かんな屑100mm
0.91W/㎡K
0.88
1項一号ハ(1)(ⅱ)及び(2)(ⅰ)(ⅱ)
基準に対して設計値は10%減ですが、実測値は56.5%減となりました。冬場は日射取得が適切にできており、無暖房でいられる期間が長く、部屋を引戸で最小化することもできるため快適な居住スペースが得られています。夏場は、植栽や日射遮蔽のできる深い軒の出に加え、大きな窓から高窓や各部屋の窓に風の通り道が確保されているため、冷房使用が少なくなっています。
テーマと要素
1
様式・形態・空間構成
深い軒と各部屋や高所に設けた窓、引き戸形式の内部建具、欄間建具により、日射や通風を最適化でき、自然エネルギーの活用がし易くなっている。庭に面した大きな多層構成の掃き出し窓は引き込み形式で、落葉樹の庭との一体性が増すようになっている。
2
構工法
落とし込み板壁工法の石場建を採用しており、外壁は杉板張り、木製窓や木製雨戸、木製木格子を場所に応じて設けている。板壁も含め木組みであるため、災害時の復旧容易性、部材の再利用などがし易くなっている。
3
材料・生産体制
地域材と地元の職人による手仕事としたことにより、長期にわたるメンテナンスが行い易く、技術の継承につながっている。地域材は炭素貯蔵に貢献している。
4
景観形成
居住環境を良好にするために設けた緑豊かな植栽は、近隣との緑の連担に繋がり、良好な景観を形成するのに貢献している。表土表しと土中改善は、雨水の浸透性が良いため、治水としての機能も持ち合わせている。
5
住まい方
緑のバッファゾーンの設置により、開放的で庭と連動した設備に頼らない暮らしがし易くなっており、季節の日射、気候変化への対策も盛り込まれている。平家のため、すだれ・よしずの利用もしやすい。
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