広江の家
岡山県倉敷市
敷地は瀬戸内海に面した鷲羽山の山裾にあります。倉敷市の気候は温暖で降水量は少なく、気温が氷点下になればニュースになるような地域です。20年前に奥様のご実家を木組みと土壁で設計させていただきました。時間とともに味わいが増していく無垢の木や土壁、それらが醸し出す爽やかな空気、心地よい住み心地をご夫妻ともに気に入ってくださって「実家のような家」を希望されました。20年前には「気候風土適応住宅」というカテゴリーはありませんでしたが、まさに「気候風土適応住宅」です。真壁で不具合が見つかりやすいところや耐久性の高さも安心に繋がっているそうです。敷地のすぐ横に小川があり、子どもたちは釣りを楽しんでいます。一方で過去に浸水を経験した地域であり、自然と共存するため、敷地を元地盤より300㎜嵩上げをしました。川の近くなので湿度が高いのが難点です。そのため、床下の通気が確保できるよう、石場建てにしました。室内は木と土壁が調湿をしてくれるので安心です。260坪と敷地が広いので、最初に完璧を目指すのではなく、みんなで少しずつ庭も家も育てていくのも楽しみです。

夏は南からの卓越風が吹きます。建物幅が南北に10m以上あり空気容量も大きいので、深い軒で日射を遮り通風を活かすと、心地よく過ごせます。多湿な地域ですが、石場建てなので床下の通風も計れます。


ポイント
POINT
1
地元の材料を使い、手仕事で作る

木は主に岡山県産材で大きな断面の材を組み上げた、高い天井の広い居間です。土は矢掛土です。大工さんはじめ職人さんたちも市内か近隣の地元の方です。

稲藁畳の畳表はお隣の早島町産、畳縁は市内児島の高田織物の麻縁です。
POINT
2

子どもたちに木と土で作った心地よい空間で育ってほしいというのが住まい手さんのご希望です。個室を小さくして確保した広い居間は、子どもたちの大好きな遊び場になっています。

一番上のお兄ちゃんが、夏休みの宿題に建築中の現場を見ながら作った模型です。木組みや土壁、伝統的な構法が次の世代へ繋がる一歩のようで嬉しかったです。
POINT
3

景観と防犯のための塀や混植垣根は、住まい手が実家のお父さんと休日に少しずつ伸ばしていきました。これから、庭に小さな森と大きな縁側を作る予定です。焦らずゆっくり、楽しみながら家を育てます。


景観と防犯のための塀や混植垣根は、住まい手が実家のお父さんと休日に少しずつ伸ばしていきました。これから、庭に小さな森と大きな縁側を作る予定です。焦らずゆっくり、楽しみながら家を育てます。
建物の概要
岡山県倉敷市
6地域
2021年9月
平屋建て
128.06㎡
【柱・梁】岡山県産桧、国産赤松 【壁】岡山県産矢掛土
【種類】べた基礎 【柱脚】石場建て
【屋根】三州瓦葺き 【壁】焼杉板張り 【主な窓】地場製作木製建具
【床】杉板張り 【壁】矢掛土中塗り仕上げ、半田漆喰塗り 【天井】杉野地板現し
【床】ネオマジュピー60㎜+杉板30㎜ 【天井】ウールブレス185㎜ 【外壁】ウッドファイバー50㎜
1.15W/㎡K
0.83
1項一号ハ(1)(ⅰ)及び(2)(ⅰ)(ⅱ)(ⅲ)
ご夫妻とも交代勤務のため、日中も就寝のために在宅している事も多く、真夏真冬は空調やガス暖房の稼働時間も長いと思われます。スポーツに励んでいる子どもたちの洗濯物も毎日山のようにあるので、ガス乾燥機がフル稼働する日もあるそうです。それでも気候の良い時期は格子網戸にして通風を活かし、洗濯物も可能な時は天日干しをするなど、できるだけ設備に頼らない暮らしを心がけているため、実測値は基準値の53%でした。
テーマと要素
1
様式・形態・空間構成
風通しの良い広い居間を設けた一方、冬の局所暖房のために小さな畳の部屋も作りました。建具は可能な限り引戸とし、深い軒を出し、庭には日射遮蔽も兼ねて小さな森を造る予定です。
2
構工法
構造は断面が大きな無垢材を使い、差鴨居や多重梁の和小屋を表しにしました。床下は石場建て、耐震要素は主に土塗り壁です。架構に接合金物は用いず、伝統的な継手仕口で組み上げています。
3
材料・生産体制
材料はほとんど県内産で、大工さんや職人さんも地域在住の方たちです。この先、維持管理でもお世話になると思います。
4
景観形成
外壁は岡山県独特の焼杉板張りに屋根は和瓦です。境界の生垣や庭の植栽は在来種に限定しました。3方が道に面しているので、景観形成も意識しました。
5
住まい方
設備に頼らない暮らし 通風に配慮した窓配置にするとともに、交代勤務のご夫妻が安心して日中に就寝できるよう、外部に格子や格子網戸を設けました。そうする事でできるだけ設備に頼らない暮らしを実現しています。
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