災害レポート

2026/09/18

災害レポート

2026/09/18

目次

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熊本地震の被災地では、今なお多くの木造家屋が傾いたまま、瓦が崩れたままになっています。現地に入った大工たちが目にしたのは、被害の大きさだけではありませんでした。

本来なら十分に直して住み続けられるはずの伝統的な木造建築や歴史的な建物が、外観の傷みだけで「もう駄目だ」と誤解され、解体されようとしている——その現実です。

左:足元が大きく損傷した印鑰(いんにゃく)神社本殿
右:地震の揺れにより、基壇から1mほど、ずれてしまった

「赤紙」は解体命令ではありません

被災後に貼られる応急危険度判定の「赤紙(危険)」や「黄紙(要注意)」は、落下の恐れがある瓦や崩れかけた壁による二次被害を防ぐためのものです。建物の構造そのものが直せないことを示すものではありません。

けれども、その説明を十分に受けられないまま「赤紙=壊すしかない」と思い込み、途方に暮れている住民の方が数多くいらっしゃいます。

専門家の目で見直すと、壁の崩落や傾きがあっても、柱や梁といった骨組(軸組)がしっかりしている建物は少なくありません。その場合、ジャッキアップで沈下を戻し、土壁や一部の構造材を補修することで、再び安心して暮らせる状態に復元できることもあります。

住民の方の案内で、損傷の具合を観察

効いていたのは
「壁の量」より「構造のバランス」

今回の調査で改めて印象に残ったのは、伝統工法や石場建てが持つしなやかで粘り強い構造と、建物全体のバランスの良さが、地震に対する強さにつながっているということでした。

被害の大小はさまざまな要因に左右されますから、断定的な捉え方は避けなければなりません。それでも、壁の量だけに頼らず、差し物(柱と柱をつなぐ横材)などの構造材がバランスよく配置された家は、地震後に残る変形(残留変形)も比較的小さく、大きな損傷なく残っていました。揺れをバネのように受け流したのだと思われます。

一方、明らかに壁配置のバランスが悪い建物、不適切な増改築を重ねた建物には、被害が目立ちました。また柱や梁が壁の内側に隠れる「大壁造り」の家屋では、外壁が剥がれて初めてイエシロアリによる深刻な食害が判明した例もあり、内部の傷みが見えにくい構造のリスクも浮かび上がっています。

遠方から見てバランスがいいと思える建物は、被害の程度が少ないように思われた


直せる「人」がいない
——職人激減という壁

最大の障壁は、災害時に現場へ駆けつけ、建物を直せる職人が激減していることです。1980年に約93.7万人いた大工は、現在では約23万人。そのうち、手刻みや墨付けができる大工は、わずか1.8万人ほどと言われています。(*1)

被災現場で建物の真価を見極め、適切に修復できる大工を育てるには、技術を伝えるだけでは足りません。住み手の暮らしを守る使命感と、高い倫理観が必要です。それらを養うのは、日常の丁寧な仕事の積み重ねにほかなりません。職人の育成は、平時の現場からすでに始まっているのです。

左:釘打ちで留められない棟の瓦が、ずれる損傷が目立った
右:変形したまま動かせなくなった障子

八代の拠点から、
復興のお手伝いを

幸いにも、木の家ネットの会員である、熊本県八代市の有限会社田口技建が手掛けてきた伝統構法の住宅は、代表の自宅と作業場も含め、今回の地震では軽微な損傷にとどまり、健全な状態を保っています。

無事だったこの田口技建を現地の拠点として、私たちは次のことに取り組んでいきます。

◎近隣の、また可能であれば他地域の職人・会員と連携し、建物の修復に技術面から協力すること
◎本ウェブサイトを通じて、伝統構法の修復技術や適切な耐震補強の事例、職人育成の大切さを発信していくこと
大工である息子さんと、屋根のブルーシート掛け作業をする田口さん(右手前)

愛着のある家を、
諦めてしまう前に

「直せるのか」「いくらかかるのか」「また地震が来たら耐えられるのか」——被災された皆さまが抱く不安は、計り知れません。

けれども、先人の知恵と職人の技術が詰まった木造建築には、たとえ傷んでも、手直しして住み続けられる復元力が備わっています。解体を急いで決めてしまう前に、どうか一度、信頼できる大工や専門家にご相談ください。

木の家ネットは、地域に息づく技術と建物を未来へ残すため、現地の職人たちとともに、確かな情報をお届けしてまいります。

住民の方に、構造について説明


*1
手刻みや墨付けができる大工には、新築の手刻みを実践している大工に加え、手刻みが基本だった時代に現場経験を積んだ大工が含まれています。

【大工人口および手刻みリソースの試算・出典根拠】

◎1980年実績:総務省『国勢調査』職業小分類「大工」就業者数、国土交通省『建築着工統計調査』。

◎2025年推計:一般財団法人建設経済研究所『建設技能者の将来数分析』に基づく2025年予測値(23万145人)を基準とし、大工の就業実態に基づき新築メイン(60%)とリフォームメイン(40%)に分離(根拠:国土交通省『住宅市場動向調査』および全建総連『住宅新築・リフォーム実態調査』)。 [1]

◎技術保持率の算定基準:新築側は林野庁『森林・林業白書』の軸組プレカット普及率(約95%)の残り5%を適用。リフォーム側は総務省『国勢調査』の年齢構成より、1990年のプレカット普及前(手刻みが基本だった時代)に23歳前後で一人前(5年修行)になり、現在も現役で現場に立てる限界層である「58歳〜70歳」のベテラン大工を抽出。ここに、国土交通省技術基盤強化事業に基づく地場棟梁の技術完全保持率(約31%)を適用し、いざとなれば自ら墨付け・手刻みを行って構造体を適切に修復できる潜在的な現役技術保持者を約1.15万人として算出。

取材・執筆・写真:木の家ネット 宮内寿和、増田拓史

取材・執筆・写真:木の家ネット 宮内寿和、増田拓史

編集:木の家ネット編集部